無題。

親しくしていたドクターが亡くなった。

えらそにふんぞり返って、近寄りがたいっていうか、
関わりあいたくね～っていうドクターが多い中、
気さくで飄々としていて、話しやすい、プーさんみたいな彼がワタシは好きだった。

病気を理由に役職を全部降りると聞いたのは1ヶ月と少し前のこと。
病名はがん、ということだった。
でも、当の本人は痩せた気配もなく、診療もしていたし、いつもと変わらなかったから、
会議に出たくないがための仮病なんじゃ？とアンドゥーと疑ってた。

それでも手術はするとのことで、
壮行会も兼ねてランチを一緒にしたのが手術の1週間前。
「お見舞い行ってもいい？」
「うん、暇だから遊びに来て」
なんて軽口叩いてた。
簡単な手術だから2週間で退院するとのこと。
ちょうどその頃、ワタシは旅行の予定があったから、
お土産渡せるなあ、なんて考えてた。

でも、帰ってきて目にしたのは訃報だった。
手術は成功したけれど、直後に心筋梗塞になってしまったこと。
ほんとうに末期がんで余命3ヶ月と宣告されていたことを知った。
しかも旅行中に告別式も火葬も終わっていて、
センセイの魂も肉体もこの世にはなかった。

そのかわりに1通のメールが職場のパソコンに届いていた。
センセイからだった。日付は手術の前々日。

ランチ会楽しかった、ありがとう。またやろうね。
○日以降には管や機械が外れるから遊びにきて。

そんなことが書いてあり、携帯のメアドが記されていた。
職場じゃなかったらきっと声をあげて泣いてたと思う。

果たせなかった約束。
渡せなかったお土産。
返信できないメールアドレス。

さよならも言えないまま、もう二度と会えない人になってしまった。
誰にでも明日がくるという保証はないのだと思い知った。
なーんかさ、冷たいじゃんよ、センセイ。
もうちょっと待っててくれてもよかったのに。
涙が出た。